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井上明人『ゲーミフィケーション』についての書評的ななにか

井上明人『ゲーミフィケーション』(NHK出版, 2012)がでてた。
ちょっと時間できたので、書評的ななにかというかステマ。
(アフィってるので買う場合は踏んで買ってくださいアイス代になります↓)


井上明人『ゲーミフィケーション』 井上明人『ゲーミフィケーション』 井上明人『ゲーミフィケーション』 井上明人『ゲーミフィケーション』


いくつか先行の読書感想文を読んだが、いずれも、他のゲーミフィケーション本とのちがいを指摘しつつも、この本のいいところをスルーしているように思える。

井上本において見るべきところとして、少なくとも以下のふたつがあるはず。

いいところ(1)

なんにでも適用されてぐだぐだになりがちな「ゲーミフィケーション」という用語について、きちんと複数の異なる用法を区別しようとしている。
(ここには、井上さんがしばしば強調する「ゲーミフィケーション」と「シリアスゲーム」の区別も含まれる。)

本の末尾(p.252)にまとめられているように、「ゲーミフィケーション」という概念には、少なくとも以下のような3つの意味のひろがりがある。

(a) 最広義: ようするに、ゲームっぽくて役に立つものなんでも。
(b) 狭義: 「コンピュータゲームのなかで特徴的に培われてきたノウハウを現実の社会活動に応用する」こと。
(c) 最狭義: そのなかでもとくに「強化学習プロセスやフロー体験を成立させるための最適なフィードバック設計のノウハウ」を応用すること。

で、本全体としては主に(b)が議論される、とされる。

いいところ(2)

上記の(c)最狭義のゲーミフィケーションの実践を、着想・設計・洗練という3つのフェーズに分けたうえで、具体的に論じている。
これは5節全体で議論される。

おそらく著者自身の力点は、この5節にあるんだろうと思う。
議論がいちばん細かいし、ちゃんと実践的なことも念頭に置いてるし。

逆にいうと、5節の議論を適切な枠組みの中に位置づけるために(つまり、話がでかくなりすぎてぐだぐだにならないように)そこまでの節で議論を整理してるのかなという気もする。

*

個人的には(ぐだぐだ概念の定式化厨としては)、いいところ(1)のほうに興味がある。
(もちろん(1)にフォーカスするような本は決して売れませんけれども。)

あと、4節で論じられているような、(b)の意味でのゲーミフィケーションがいまになってうまくいっている(or うまくいくだろう)ことを説明するものとしての「環境」(というか条件というか)にも興味ある。

著者は、そのような環境として、計測テクノロジーの進歩やインターネット/ソーシャルメディアの登場やゲーム世代の成熟といったことを挙げているが、踏み込んだ議論はしていない。

このへんがもうちょっと掘り下げられると、わくわくするかもしれない。

たとえば、これらの環境は、ゲーミフィケーションにとって、たんなる《メディア》なのか、そのメディアを扱うための《メディアリテラシー》なのか、そのコンテンツを受容するための《文化的素養》なのか、といった観点から、カテゴリ分けできるだろう。

で、その環境としての(あるいは要求される条件としての)メディアリテラシーや文化的素養の特殊性が、ゲーミフィケーションの可能性と限界をあるていど決定するような気がする(たとえば、インターネットつかえない人はメディアリテラシーの点でゲーミフィケーションからはじかれるだろうし、SNS的なコミュニケーションを楽しめない人は文化的素養の点で(SNS的な)ゲーミフィケーションをうけつけないだろう)。

そういう議論が今後展開されれば、ゲーミフィケーションまわりの話がおもしろくなるかもしれない。

*

というわけで論点が多くておもしろい本です。
事例もいっぱい紹介されてるよ。
(というか、事例がどうのみたいなのがたいていの読書感想文の中心的部分なんだけど、やっぱりこういう本だと具体的事例の紹介が重要だということかな)

すてまおわり。

井上明人『ゲーミフィケーション』

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ゲーム研究入門

勉強会1回目の資料としてつかったものです。
人文系ゲーム研究(game studies)についての軽いイントロダクションです。
まるまる信じないでください。

呼称の問題いろいろ

研究対象の呼称

  • 「ビデオゲーム」、「コンピュータゲーム」、「デジタルゲーム」、「電子ゲーム」、etc...
  • めんどくさいので、とりあえず包括的呼称として、英語圏の研究でもっともふつうに使われている印象がある「ビデオゲーム」(videogames)を採用してはどうか。
  • ビデオゲーム以外のゲームの呼称も問題。
  • 「アナログゲーム」、「非デジタルゲーム」、「非電源ゲーム」、etc...
  • 個人的には、外延がある程度はっきりしてれば呼び名はなんでもいいが、日本のゲーム研究の現状だと、用語が定着するまではその都度ちょっとした定義をしてつかったほうがいいのかも。

分野の呼称

  • 「ルドロジー」(ludology)について
    • ゴンサロ・フラスカ(Frasca 1999)が、来たるべき「ゲームとプレイの活動を研究する分野」の呼称として提案した。
    • 新分野提唱の動機は、おおむね以下の2つ:
      1. ゲームや遊びは、さまざまな分野(たとえば、心理学、人類学、経済学、社会学)でそれぞれ独立に焦点を限定して研究されてきたが、それらをより大きな枠組みで統一的にとらえる観点が必要である。
      2. ビデオゲームは、「ナラトロジー」的な観点から研究されることが多いが、ゲームの固有性は、このようなアプローチによっては拾えない。つまり、ビデオゲームを物語としてではなくゲームとして扱う必要がある。
    • その後、上記2の論点をめぐって、いわゆる「ルドロジストvsナラトロジスト」論争が起こったとされる(実際には、問題設定や用語の整理がうまくいっていない空振りの疑似論争のように思える。Frasca 2003; Jenkins 2004; Pearce 2005; Murray 2005を参照)。
    • 北欧系のフラスカ、マルック・エスケリネン(Markku Eskelinen)、初期のイェスパー・ユール(Jesper Juul)などが、ルドロジー的アプローチを推す代表的論者とされる。
    • 結果として、文脈によっては、「ルドロジー/ルドロジスト」が特定のアプローチを指す限定的な意味合いで使われることがある。なので、ゲームについての研究一般を指す名称として「ルドロジー」を使うのはちょっと微妙。
    • 最近の論文で使われているのをほとんど見ない(もともと北欧系の研究者中心に使われていたものなので、北欧系以外の研究者は使わないだけかも)。
  • 「ルドロジー」以外の候補としては、ぱっと見だけで、"game studies"、"game research"、"game theory"、"theory of games"などがある。
  • いわゆるゲーム理論(game theory)とはちゃんと区別したほうがよい。
  • 個人的には「ゲーム研究」(game studies)で統一しとけばいいと思っている。

ゲーム研究とは

Mäyrä(2008: 6)による定義:
「ゲーム研究とは、ゲームとそれに関連する諸現象を主題として研究・学習する学際的な分野」

ゲーム研究の対象

  • 基本的にビデオゲームが中心だが、非ビデオなゲームの事例も比較対象や説明項としてしばしば持ち出される。
  • ビデオゲームのどの側面にとくに焦点をあわせるかについてはバリエーションがある。
    • 媒体の形式的構造(あるいは文法)か、伝達される意味内容か、ゲームプレイの経験か、取り巻く文化か...など。
    • これはたぶん、芸術についての研究が複数の観点をもつのと完全にパラレル。
  • また、当然だが、(ビデオ)ゲーム一般について論じるものもあれば、特定のジャンルや作品に限定して論じるものもある(とはいえ、実際には、前者の一般論も特定のジャンルや作品の観察にもとづいてるのがふつう)。
  • ゲーム史的な観点(時代間の比較対照をしたり特定の時代の特徴を明らかにするもの)もある。

ゲーム研究の歴史

  • ゲーム研究の歴史は、Mäyrä(2008: 5-11)にざっくり書かれている。このセクションの記述はおおむねこれに準拠。

    Frans Mäyrä, An Introduction to Game Studies: Games in Culture

    Frans Mäyrä, An Introduction to Game Studies: Games in Culture, 2008.

  • ゲームについての研究は、さまざまな領域(とくに歴史学とか人類学)で昔から断続的にされていたものの、それらをひとつにまとめあげる制度的な支えはなかった。
    • たとえば、E. M. Avedon & B. Sutton-Smith, Study of Games(1971)を見ると、ゲームについての研究の蓄積がそれなりにあるのがわかる。
  • ゲームについての研究の初期の位置づけを考えると、シミュレーション(大きなシステムのふるまいを、単純化された別のシステムによって模倣すること)についての研究とのつながりが大きい。
    • ウォーゲームの歴史は、(軍事)シミュレーションと密接にかかわるもの。
    • もともと1950年代にアメリカのウォーゲーマーたちが作った組織(the East Coast War Games Council)が、のちに拡大して、the North American Simulation and Gaming Association(NASAGA)になり、さらに国際的な包括組織として、1970年にInternational Simulation and Gaming Association(ISAGA)ができる。
    • ここでは、年1回カンファレンスがおこなわれ、ゲームとシミュレーションやそれらのさまざまな応用について議論されている。
    • また、学術誌Simulation & Gamingを発行している。
  • それとは別に、ミネアポリスに集まった北米の研究者のグループは、1974年に遊びの研究に焦点をあわせる学会を作った(1987年にThe Association for the Study of Play(TASP)に改称)。
    • 年1回の会議のプロシーディングを発行しているほか、学術誌Play and Culture Studiesを発行している。
  • 90年代になると、メディア論的な観点から(ビデオ)ゲームへ接近する動きが出てくる。
    • Espen Aarseth, Cybertext(1997)、Janet Murray, Hamlet on the Holodeck(1996)など。
    • ここでは、ビデオゲームやMUDsなどが、ハイパーテクストフィクションやインタラクティブドラマと関連づけられて論じられる。
  • 90年代末から00年代初頭にかけてエスケリネンやユールら「ルドロジスト」たちによる「ナラトロジー」批判。
    • ユールいわく、「いかなる物語要素抜きでもコンピュータゲームはできる」し、「さらに言えば、ストーリーを語らないというまさにその点がコンピュータゲームの強みである」(quot. Mäyrä 2008: 9)
    • 実際には、「ルドロジスト」の多くは文学研究や物語論の領域の出身であり、あえて既存の領域との差別化を図ったり、必要以上にゲームとゲーム研究の固有性を強調しているようなところがある。
  • 2001年以降
    • 2001年に、エスペン・アールセト(Espen Aarseth)など北欧の研究者を中心として、オンライン学術誌Game Studiesが創刊される。「コンピュータゲーム研究元年」。
    • ヨーロッパで一連のゲーム研究のカンファレンスが開かれはじめる。
    • 2003年に、Digital Games Research Association(DiGRA)が設立される。
    • 最近では、カナダにもCanadian Game Studies Association(CGSA)という学会ができている。

どんなアプローチがされているか

  • アプローチではなく対象を固定するタイプの分野なので、アプローチは基本的に学際性を謳っている。Mäyrä(2008, 157ff)によれば、人文学的方法、社会科学的方法、デザイン研究的方法などがあるとされる。
  • 人文系にかぎれば、メディアスタディーズやテクスト論といった文学研究系に基礎をおいている研究者が多いように思える。ジュネットとかチャットマン的なガチ物語論のような形式研究を目指すものもあれば(初期の「ルドロジスト」はそれを目指していた感がある)、内容や媒体についてのイデオロギー批判・文化批判的な観点からのものも多い。
  • また、プレイヤー経験の心理的・認知的側面に注目するものもよく見かける。
  • 英米の美学/芸術の哲学系統の人もちらほら出てきている。とくにニュージーランドの研究者であるグラント・タヴィナー(Grant Tavinor)は、ビデオゲーム研究を分析美学的なアプローチから本格的にやっている。
  • 上記の「ルドロジーvsナラトロジー」みたいな対立図式はもうないが、〈ルール/ゲームシステムの側面〉と、他の媒体とも共通の〈representational / fictionalな側面〉の概念的な区別は、しばしば積極的にされる(Juul 2005など)。
  • 学際的であるおかげか、(ゲーム研究としての)用語の統一ができてない印象がある(それぞれが基礎にしている分野ではきちんと定義されている用語なのかもしれないが)。
  • ユール(http://www.half-real.net/dictionary/)やタヴィナー(Tavinor 2009の末尾)はゲーム研究用語辞典を作っているので、こういうのをつかえば用語の統一や概念の共有に役立つかもしれない。

人文系ゲーム研究の論文があるところ

オンラインで手に入るものを中心に挙げておきます。
このほか、アンソロジーがいろいろ出てるので、また別の機会にリストするかも。
英語以外のものはよくわかりません。誰か教えてください。

References

  • Frasca, Gonzalo (1999). "Ludology Meets Narratology: Similitude and Differences between (Video)games and Narrative." First version originally published in Parnasso#3, Helsinki.
    http://www.ludology.org/articles/ludology.htm
  • Frasca, Gonzalo (2003). "Ludologists Love Stories, Too: Notes from a Debete That Never Took Place." In Level-Up. Proceedings of DiGRA 2003 Conference. Utrecht.
    http://www.ludology.org/articles/Frasca_LevelUp2003.pdf
  • Jenkins, Henry (2004). "Game Design as Narrative Structure." In N. Wardirip-Fruin & P. Harrigan (eds.), First Person: New Media as Story, Performance, and Game. The MIT Press. 118-130.
    http://web.mit.edu/cms/People/henry3/games&narrative.html
  • Juul, Jesper (2005). Half-Real: Video Games between Real Rules and Fictional Worlds. The MIT Press.
  • Mäyrä, Frans (2008). An Introduction to Game Studies: Games in Culture. Sage Publications.
  • Murray, Janet (2005). "The Last Word on Ludology v Narratology in Game Studies." Delivered as a preface to keynote talk at DiGRA 2005, Vancouver, Canada, June 17, 2005.
    http://www.lcc.gatech.edu/~murray/digra05/lastword.pdf
  • Pearce, Celia (2005). "Theory Wars: An Argument Against Arguments in the so-called Ludology/Narratology Debate." In Changing Views - Worlds in Play. Proceedings of DiGRA 2005 Conference. Vancouver.
    http://www.lcc.gatech.edu/~cpearce3/PearcePubs/PearceDiGRA05.pdf
  • Tavinor, Grant (2009). The Art of Videogames. Wiley-Blackwell.

ゲーム研究の勉強会

人文系のゲーム/ビデオゲーム研究の本とか論文とかを読む勉強会を(できたら)します。
とりあえず、基礎的な文献の消化と共有をすすめつつ、できれば、今後のゲーム研究で使う諸々の語彙とか概念を整理して共有したいです。

人文系ゲーム研究に興味があるとか、してみたいとか、もうしてるとかいうかたは、ぜひご参加ください。

読むものは英語の文献が中心になると思います。
場所は東京23区内になると思います。
ゆるいかんじになると思います。

参加希望のかたは、以下のいずれかの方法で適当にご連絡ください。

  • E-mail: matsunagashinji(at)gmail.com
  • Twitter: @zmzizmにリプライかDMしてください。
  • 直接: やさしく話しかけてください。

人数集まらなさすぎ(あるいはたぶんないけど集まりすぎ)の場合は、ちょっと考えます。

オンラインで手にはいるビデオゲームの空間についての論文 (2)

以前、オンラインで手にはいるビデオゲームの空間についての論文をリストしましたが、以下を追加しておきます。すべてpdf。

あと以下の本も新たにぽちった。これはあまり期待していない。

Conference Proceedings of The Philosophy of Computer Games 2008は全文を落とせます。面白そうなのが多いです。

誰か論文の消化手伝ってくれないものかな。

オンラインで手にはいるビデオゲームの空間についての論文

吉田寛さんの論文とは多少ちがう関心から、ビデオゲームの空間について考えている。
《空間》概念自体が相当もんだいなので、語るまえに概念の整理と規定が必須だろうと思います。

ぐぐったところ、空間の問題はけっこうちゃんと議論されているみたいで、まとめがいがありそう。
以下オンラインでとりあえず手にはいった空間絡みらしき論文。すべてpdfです。

あと以下の本をぽちった。この人の時間論がしっかりしてたので、ちょっと期待してる。



ついでに、さいきんpdfで落としたor読もうとしている空間絡みでない論文もリストしておきます。



上に挙げたのにも含まれてるけど、イタリアの記号論の学会(AISS, Associazione Italiana Studi Semiotici)のオンラインジャーナルが2009年にゲームの特集号を出していて、内容がいいかんじ。

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