『しかめっ面にさせるゲームは成功する』2章の訳

ゲームスタディーズ読書会の第2期でイェスパー・ユール『しかめっ面にさせるゲームは成功する』(ボーンデジタル、2015; Jesper Juul, The Art of Failure, MIT Press, 2013)を読んでいます。

訳のクオリティがどうのみたいな話は、刊行時にレビューしたのでこれ以上やりたくないのですが、2章の急所の訳が決定的にだめなので、その点だけ書いておきます。

問題の訳文は以下(『しかめっ面』p.30)。

これは、ゲームの失敗が意味するところは不確実ですが、悩みの種ではなく、1つの特徴であることを意味します。

原文は以下の通り(The Art of Failure, 44)。

This means that the uncertain meaning of game failure is a feature, not a bug:

訳文案は以下の通り。

以上が示すのは、ゲームの失敗の意味が定まらないのは仕様であってバグではないということだ。

以下内容について。

まず「not a bug, but a feature」は、「それは仕様です」に相当する標準的なスラング。ゲームの失敗に本来的に備わるものであることを示している。「1つの特徴」とか訳すと意味不明になる。

で何が本来的に備わっているかというと、その意味が不安定であることだ。2章では、まず苦痛な芸術のパラドックスが紹介され、それからそれを解決しようとする諸説(デフレ説、相殺説、非快楽説)が検討される。ユールは、ゲームの失敗には、それらの説が言っていることがおおよそすべて含まれるという。ようするに、ゲームの失敗をめぐる実際の慣習と言説を見れば、それぞれの説に対応する考え方がすべて見られるのだ。そして、それはどれかひとつに定まるものではなく、場合に応じて使い分けられる。そしてまさに、ゲームの失敗のとらえ方がそのように定まらないという点に、ゲームの失敗の独特の特徴がある。これがユールの主張だ。それがこの箇所で一文で表現されている。

ターコイズさんも示唆している通り、訳文だけだとこういうユールの考えについてほとんど何もわからないと思う。この訳文からわかるのは、訳者と編集者がこの章の議論の筋道を理解していないということくらいだろう。