ゲーム研究入門

Nov 13, 2011|ゲーム研究

勉強会1回目の資料としてつかったものです。人文系ゲーム研究(game studies)についての軽いイントロダクションです。偏りがあると思うので、まるまる信じないでください。

呼称の問題いろいろ

研究対象の呼称

  • 「ビデオゲーム」、「コンピュータゲーム」、「デジタルゲーム」、「テレビゲーム」、「電子ゲーム」、etc...
  • めんどくさいので、とりあえず包括的呼称として、英語圏の研究でもっともふつうに使われている印象がある「ビデオゲーム」(video games)を採用してはどうか。
  • ビデオゲーム以外のゲームの呼称も問題。「アナログゲーム」、「非デジタルゲーム」、「非電源ゲーム」、etc...
  • 個人的には、外延がある程度はっきりしてれば呼び名はなんでもいいが、日本のゲーム研究の現状だと、用語が定着するまではその都度ちょっとした定義をしてつかったほうがいいのかも。

分野の呼称

  • ルドロジー」(ludology)について
    • ゴンサロ・フラスカ(Frasca 1999)が、来たるべき「ゲームとプレイの活動を研究する分野」の呼称として提案した。
    • 新分野提唱の動機は、おおむね以下の2つ:
      • ①ゲームや遊びは、さまざまな分野(たとえば、心理学、人類学、経済学、社会学)でそれぞれ独立に焦点を限定して研究されてきたが、それらをより大きな枠組みで統一的にとらえる観点が必要である。
      • ②ビデオゲームは、「ナラトロジー」的な観点から研究されることが多いが、ゲームの固有性は、このようなアプローチによっては拾えない。つまり、ビデオゲームを物語としてではなくゲームとして扱う必要がある。
    • その後、上記②の論点をめぐって、いわゆる「ルドロジストvsナラトロジスト論争」が起こったとされる(実際には、問題設定や用語の整理がうまくいっていない空振りの疑似論争のように思える。Frasca 2003; Jenkins 2004; Pearce 2005; Murray 2005を参照)。
    • フラスカに加え、北欧系のマルック・エスケリネン(Markku Eskelinen)、アキ・ヤルヴィネン(Aki Järvinen)、イェスパー・ユール(Jesper Juul)などが、ルドロジー的アプローチを推す代表的論者とされる(参考)。
    • 結果として、文脈によっては、「ルドロジー/ルドロジスト」が特定のアプローチを指す限定的な意味合いで使われることがある。なので、ゲームについての研究一般を指す名称として「ルドロジー」を使うのはちょっと微妙。
    • また、最近の論文で使われているのをほとんど見ない(もともと北欧系の研究者中心に使われていたものなので、北欧系以外の研究者は使わないだけかも)。
  • 2000年代前半あたりの文献では、ぱっと見でも「ルドロジー」の他に、「game studies」、「game research」、「game theory」、「theory of games」などいろいろな呼称が使われている。
  • 応用数学としてのいわゆるゲーム理論(game theory)とはちゃんと区別したほうがよい。
  • 最近の文献ではほぼ「game studies」に統一されている印象。
  • というわけで、日本語の名称もそれにあわせて「ゲーム研究」で統一しとけばいいのではないか(DiGRA Japanの設立前後の時期には「ゲーム学」という名称がちらほら使われてた記憶があるが)。
  • 個人的には略称「ゲースタ」がチャラくて気に入っている。

ゲーム研究とは

Mäyrä(2008: 6)によれば「ゲーム研究とは、ゲームとそれに関連する諸現象を主題として研究・学習する学際的な分野」。

ゲーム研究の対象

  • 基本的にビデオゲームが中心だが、アナログゲームの事例も比較対象や説明項としてしばしば持ち出される。
  • ビデオゲームのどの側面にとくに焦点をあわせるかについてはバリエーションがある。
    • 媒体の形式的構造か、伝達される意味内容か、ゲームプレイの経験か、取り巻く文化か...など。
    • これはたぶん、芸術についての研究が複数の観点をもつのと完全にパラレル。
  • また、当然だが、(ビデオ)ゲーム一般について論じるものもあれば、特定のジャンルや作品に限定して論じるものもある(とはいえ、実際には、前者の一般論も特定のジャンルや作品の観察にもとづいてるのがふつう)。
  • ゲーム史的な観点(時代間の比較対照をしたり特定の時代の特徴を明らかにするもの)もある。

ゲーム研究の歴史

  • ゲーム研究の歴史は、Mäyrä(2008: 5-11)にざっくり書かれている。このセクションの記述はおおむねこれに準拠。
  • ゲームについての研究は、さまざまな領域(とくに歴史学とか人類学)で昔から断続的にされていたものの、それらをひとつにまとめあげる制度的な支えはなかった。
    • たとえば、E. M. Avedon & B. Sutton-Smith, Study of Games(1971)を見ると、ゲームについての研究の蓄積がそれなりにあるのがわかる。
  • ゲームについての研究の初期の位置づけを考えると、シミュレーション研究とのつながりが大きい。
    • ウォーゲームの歴史は、軍事シミュレーションと密接にかかわるもの。
    • もともと1950年代にアメリカのウォーゲーマーたちが作った組織(the East Coast War Games Council)が、のちに拡大して、the North American Simulation and Gaming Association(NASAGA)になり、さらに国際的な包括組織として、1970年にInternational Simulation and Gaming Association(ISAGA)ができる。
    • ここでは、年1回カンファレンスがおこなわれ、ゲームとシミュレーションやそれらのさまざまな応用について議論されている。
    • また、学術誌Simulation & Gamingを発行している。
  • それとは別に、ミネアポリスに集まった北米の研究者のグループは、1974年に遊びの研究に焦点をあわせる学会を作った(1987年にThe Association for the Study of Play(TASP)に改称)。
    • 年1回の会議のプロシーディングを発行しているほか、学術誌Play and Culture Studiesを発行している。
  • 90年代になると、メディア論的な観点から(ビデオ)ゲームへ接近する動きが出てくる。
    • Espen Aarseth, Cybertext(1997)、Janet Murray, Hamlet on the Holodeck(1996)など。
    • ここでは、ビデオゲームやMUDsなどが、ハイパーテクストフィクションやインタラクティブドラマと関連づけられて論じられる。
  • 90年代末から00年代初頭にかけてエスケリネンやユールら「ルドロジスト」たちによる「ナラトロジー」批判。
    • ユールいわく、「いかなる物語要素抜きでもコンピュータゲームはできる」し、「さらに言えば、ストーリーを語らないというまさにその点がコンピュータゲームの強みである」(quot. Mäyrä 2008: 9)
    • 実際には、「ルドロジスト」の多くは文学研究や物語論の領域の出身であり、あえて既存の領域との差別化を図ったり、必要以上にゲームとゲーム研究の固有性を強調しているようなところがある。
    • (あと、ユール自身の回想によると、90年代後半は「ナラティブ」という語がバズってたという状況もあって、その語を使ったしょぼい議論が多かったみたい。)
  • 2001年以降
    • 2001年に、エスペン・アーセト(Espen Aarseth)など北欧の研究者を中心として、オンライン学術誌Game Studiesが創刊される。「コンピュータゲーム研究元年」。
    • ヨーロッパで一連のゲーム研究のカンファレンスが開かれはじめる。
    • 2003年に、Digital Games Research Association(DiGRA)が設立される。
    • 最近では、カナダにもCanadian Game Studies Association(CGSA)という学会ができている。

どんなアプローチがされているか

  • アプローチではなく対象を固定するタイプの分野なので、アプローチは基本的に学際性を謳っている。Mäyrä(2008, 157ff)によれば、人文学的方法、社会科学的方法、デザイン研究的方法などがあるとされる。
  • 人文系にかぎれば、メディアスタディーズやテクスト論といった文学研究系に基礎をおいている研究者が多いように思える。ジュネットやチャットマンの物語論のようにガチの形式研究を目指すものもあれば(初期の「ルドロジスト」はそれを目指していた感がある)、内容や媒体についてのイデオロギー批判・文化批判的な観点からのものも多い。
  • また、プレイヤー経験の心理的・認知的側面に注目するものもよく見かける。
  • 英米の美学・芸術の哲学系統の人もちらほら出てきている。とくにニュージーランドの研究者であるグラント・タヴィナー(Grant Tavinor)は、ビデオゲーム研究を分析美学的なアプローチから本格的にやっている。
  • 上記の「ルドロジーvsナラトロジー」みたいな対立図式はもうないが、〈ルールやゲームメカニクスの側面〉と〈表象やフィクションの側面〉の概念的な区別は、しばしば積極的にされる(Juul 2005など)。
  • 学際的であるおかげか、ゲーム研究としての用語の統一がいまいちできてない印象がある。

人文系ゲーム研究の論文があるところ

オンラインで手に入るものを中心に挙げておきます。
このほか、アンソロジーもいろいろ出てます。
英語以外のものはよくわかりません。誰か教えてください。

References

  • Frasca, Gonzalo (1999). "Ludology Meets Narratology: Similitude and Differences between (Video)games and Narrative." First version originally published in Parnasso#3, Helsinki.
    http://www.ludology.org/articles/ludology.htm
  • Frasca, Gonzalo (2003). "Ludologists Love Stories, Too: Notes from a Debete That Never Took Place." In Level-Up. Proceedings of DiGRA 2003 Conference. Utrecht.
    http://www.ludology.org/articles/Frasca_LevelUp2003.pdf
  • Jenkins, Henry (2004). "Game Design as Narrative Structure." In N. Wardirip-Fruin & P. Harrigan (eds.), First Person: New Media as Story, Performance, and Game. The MIT Press. 118-130.
    http://web.mit.edu/cms/People/henry3/games&narrative.html
  • Juul, Jesper (2005). Half-Real: Video Games between Real Rules and Fictional Worlds. The MIT Press.
  • Mäyrä, Frans (2008). An Introduction to Game Studies: Games in Culture. Sage Publications.
  • Murray, Janet (2005). "The Last Word on Ludology v Narratology in Game Studies." Delivered as a preface to keynote talk at DiGRA 2005, Vancouver, Canada, June 17, 2005.
    http://www.lcc.gatech.edu/~murray/digra05/lastword.pdf
  • Pearce, Celia (2005). "Theory Wars: An Argument Against Arguments in the so-called Ludology/Narratology Debate." In Changing Views - Worlds in Play. Proceedings of DiGRA 2005 Conference. Vancouver.
    http://www.lcc.gatech.edu/~cpearce3/PearcePubs/PearceDiGRA05.pdf
  • Tavinor, Grant (2009). The Art of Videogames. Wiley-Blackwell.