2019年に出た文章

Dec 30, 2019|雑記

年末なので宣伝を兼ねた振り返り。今年出版された文章のうち、とくに読まれたいものをピックアップします。


ゲーム学の新時代

本質論としてのゲーム・スタディーズ

中沢新一・中川大地編『ゲーム学の新時代』(NTT出版、2019年)に所収。主にゲームの定義論という視点から、2000年ごろに北欧で成立したゲームスタディーズの成立史とその背景をたどっている文章です。有名な「ルドロジー vs ナラトロジー」論争(その実態が盛大に誤解されていることでも有名な)についてもいくらか触れています。

ついでに言うと、いいかげん「ルドロジー × ナラトロジーにうかつに言及すると知ったかぶりがばれるので危険」という認識が広まるといいなと思います。そんな「論争」などなかったのです(少なくとも想定されがちな姿としては)。以下のエントリーも参照。


POP

ゲーム・ミーツ・アートビデオゲーム・アヴァンギャルドの可能性

https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14643/

文化庁メディア芸術カレントコンテンツの記事。ゲームで「アヴァンギャルド」をやるとはどういうことか、どういう方向性が実際にあるか、という話です。アートゲーム(アートなゲーム)に関心ある方はどうぞ。ゲームアート(ゲームなアート)とはちょっとちがうよ、みたいな話もあります。

ググるとわかりますが、日本語での「アートゲーム」という語の用法はどうにも地獄なので、どうにもならないだろうけどどうにかなってほしい。


プレイ・マターズ

プレイ・マターズ遊び心の哲学

ゲーム研究者ミゲル・シカールの著書の翻訳です。遊びとは何か、遊びはどんな意味で大事(マター)なのか、という論点をコンパクトに論じる本です。文体・内容ともに読む人をかなり選ぶ本ですが、今後の遊び・ゲーム研究のベースのひとつになるのは確かでしょう。ホイジンガ、カイヨワで物足りない人向け。Playful Thinking シリーズの翻訳「第1弾」ということで、第2弾もそのうち出るはず…!

『プレイ・マターズ』のレビューは、自分で書いた軽めの紹介記事、立花史さんによる短評、吉田寛さんによる本格的な書評があります。

深まるトークもした。


多元化するゲーム文化と社会

ゲームの内と外?マジックサークル再考

松井広志・井口貴紀・大石真澄・秦美香子編『多元化するゲーム文化と社会』(ニューゲームズオーダー、2019年)に所収。ゲーム研究の有名な概念「マジックサークル」を分解している文章です。「ゲームは一般にマジックサークルを持つ」ということは「ゲームは一般に現実や日常生活から分離している」ということではないという話をしています。

「マジックサークル」もわりとバズワードぽく使われがちですが、いろいろ問題含みの概念であることが広まるとよいです。


eBoy

ピクセルアートの美学第1回 ピクセルアートとは何か

https://mediag.bunka.go.jp/article/article-15549/

文化庁メディア芸術カレントコンテンツの記事。分析美学者らしくピクセルアート(ドット絵)の定義をしています。「ドット絵の定義とは??」みたいなしょうもないネット論争が起きたときに参照できるようなものを心がけました。途中に、代表的な描写の哲学者ジョン・カルヴィッキによる画像の4条件についての簡単な解説もあります。

「第1回」とあるようにいちおう連載なのですが、次の記事はまだ書けていません(いま書いてる)。


エクリヲ vol. 11

動詞とパターンゲームとシミュレーションの関係をめぐって

『エクリヲ』vol. 11(2019年)に所収。「ゲームはシミュレーションである」という考えに対してもっというと「現実の何かをゲームにする」みたいな発想全般に対してアンチを唱えている文章です。現代のビデオゲーム文化に蔓延するシミュレーション主義を、芸術の本質を自然の表象・模倣・ミメーシスととらえる古い考えの現代版であるとして攻撃しています。『ビデオゲームの美学』における「シミュレーション」概念のおさらい+拡張にもなっています。

自分のゲーム観というか規範的な考えを積極的に出している文章は珍しいかもしれません(口頭ではしょっちゅう言ってる気がしますが)。『エクリヲ』は流通的にやや入手しにくいかもしれませんが、ゲームの作り手・受け手の両方を意識して書いたので、広く読まれたい原稿です。


抱負など

今年は休むことが多かったので、来年はもうちょっとパフォーマンスを上げていこうと思います。重めの原稿もがんばりたい。

ついでに宣伝すると、年明けには「描写の哲学研究会」というホットなイベントがあります。描写の哲学関係の原稿もおいおい出していければと思います。

というわけで、よい2020年代を~