「リアリティ」について

Nov 26, 2012|雑記

おかず : http://togetter.com/li/412739

再現芸術についての「リアル」とか「リアリティ」とかいう言葉はなにを指しているのか、という問題について思ったこと。

思いつきメモなので、美学的な裏づけはありません(きっと膨大な議論の蓄積があるはず)。あと、英語の「reality」は日本語とはまたちがった意味合いを持つと思うので、日本語に限定します*

再現芸術について「リアル/リアリティ」がつかわれる場面において問題になる側面は、おおむね以下の3つに区別できるのではないか。

  • ① 写実性 : 再現対象との類似度
  • ② 忠実性 : 実際に存在する対象との類似度
  • ③ 迫真性 : 経験の強度

① 写実性

表すものと表されるものが似ていること。記号論で「iconicity」と呼ばれてきたやつです*

絵画などの画像的再現芸術における視覚的写実性はわかりやすいけど、たとえば、筋書きの写実性とか世界のありかたの写実性とかキャラクタの心の動きの写実性というかたちで、再現芸術一般に言える。

再現対象が実際に存在する対象である必要は必ずしもなくて、フィクショナルな対象についても写実的とかそうでないとか言えるはず*。たとえば、ユニコーンの写実性とかスチームパンク世界の写実性とかはふつうに言えるし、ふつうにそう言えてしまうわれわれの直観は擁護されるべき。

もうちょっと概念を広げると、既存のフィクション作品(あるいはグッドマン風にいうと、既存のフィクション作品が採用している再現システム)との関係についても写実的と言えるかもしれない。

たとえば、「GTA4って超リアル(写実的という意味で)」と言う場合、部分的には現実の世界との類似度にもとづいた判断だろうが、部分的には既存の犯罪映画が描く世界ないし世界観との類似度にもとづいた判断だろうと思われる。

② 忠実性

再現対象が実際に存在する場合の、再現対象との類似度。「忠実性」っていう名前はなんとなくつけただけなので、もうちょっとちゃんとした用語が他にあるかも*

歴史物でよく話題になるところの「史実に忠実かどうか」「時代考証のクオリティ」みたいなのは、このレベルの議論だろうと思う。「三国志の武将のコスチュームは実際はぜんぜんちがってた」みたいなあれ。

trickenさんに教えてもらったTRPGにおける「リアルリアリティ」という概念は、現実のものを再現対象にした場合の類似度のことだろうと思う。つまり、ここでの用語法にしたがえば、忠実性のことだろう。

ただ、「現実」をどこまでとるかはけっこう微妙なところではある。アリストテレスの有名な歴史と詩の区別に見られるように、現にある(あるいは現にあった)個別的事実だけでなく、可能的ないし普遍的なものも「現実」に含めていいかもしれない。

そうすると①との区別があいまいになりそうだけど、まあ厳密に言えばそういうあやふやなものなんだろうと思う。

③ 迫真性

なまなましく感じられる、もってかれる、みたいな意味合いで「リアリティがある」っていう述語が使われる場合がまあまああるんではないか。

これは再現芸術の経験にかぎったものではなくて、経験一般に言えるはず。たとえば、現実の経験に対して「リアリティを感じない」とか言ったりする。「現実味」みたいな語が指すものに近いのかも。

迫真性は、再現芸術の経験に対してつかわれる場合には、①や②と直接に結びつけられやすい。

しかし、直接に結びつけられがちであることを前提したうえで、「写実性と迫真性は直接に結びつくものではない」という主張がされたりする。たとえば、「リッチなポリゴンだからといってドット絵にくらべて必ずしもリアリティ(迫真性という意味で)があるわけではない」みたいなやつ。

そういう主張を意味あるものと考えるかぎりは、両者は概念的に区別されるべき。

というわけで、再現芸術について「リアル」とか「リアリティ」とかいった言葉がつかわれる議論でしばしば主張されるのは、①と②の区別、①と③の区別、②と③の区別のいずれかではないかと思う。

おかずになったtogetterにおける「リアル」「リアルっぽく見える」「リアリティ」「リアル度」「正確な描写」などがそれぞれ①②③のどれに対応しているのか(あるいはどれにも対応してないのか)は細かく考えてみないとわからないけど。

おわり。

Footnotes

  • 英語だと「realistic/realism」に近いんではないか。あと「verisimilitude」という別系統の語彙もある。

  • iconicityではなくtransparency(透明性)でリアリズムを特徴づけるのも一般的かもしれない(e.g. see)。iconicityは表現と内容の類似、transparencyは表現(媒体)の不可視化(とそれによる内容の前景化)である。微妙にちがう。

  • とはいえ、フィクションの写実性も最終的になんらか現実についての経験に紐づいてないといけないとは思う。その点で②との区別があいまいになるかもしれない。

  • 英語だと「fidelity」と言われることがある。日本語だと、これを指すのに「再現性」みたいな言葉がつかわれる場合もあるかもしれないが、そこにさらに「representation」の訳語としての「再現」が混ざってきたりするとややこしくなるのであまりいい用語法ではない。