最近出たゲーム研究の本

誰得感がはんぱないですが、2012年に出た人文系ゲースタのアンソロジー/入門系の本を4冊ほど紹介しておきます。

The Philosophy of Computer Games.

ヨーロッパで定期的にやっているPhilosophy of Computer Games Conferenceで発表されたものを中心にまとめたアンソロジーです。

イントロにあるように、コンピュータゲームの哲学の仕事は、(1) コンピュータゲームについてのアカデミックな研究がしばしば持ち出す基礎的な諸概念を批判的に吟味し、明瞭化する、(2) 伝統的な哲学的諸問題をコンピュータゲームの文脈のうちで扱う、の2つであるとされます。

全部で17個の論文が3つのパートに分けられるという構成になっています。パート1はプレイヤーのプレイ経験の話、パート2はゲームと倫理の話、パート3はゲーム世界あるいはフィクションの話が中心です(目次はこちら)。

書き手は、R. KlevjerやA. MeskinやG. Tavinorなど、個人的に推している論者が多いです。倫理のパートには、The Ethics of Computer Gamesを書いたM. Sicartの論文も入っています。

いくつかの収録論文を読みましたが、芸術やフィクションについての分析美学的な諸概念を前提して細かい議論をしていることが多いので、その方面になじみがないとけっこう辛いかもしれません。

内容はおすすめですが、シュプリンガーェなお値段なので私費で買うのはおすすめしません。

Computer Games and New Media Cultures: A Handbook of Digital Games Studies.

これもくそ高いです。

2009年にドイツで開かれたカンファレンス(Computer Games / Players / Game Cultures: State and Perspective of Digital Game Studies)で発表されたものを中心にまとめたアンソロジーです。

先に挙げた本は哲学的な議論を扱うものでしたが、このアンソロジーは、むしろビデオゲームのメディア特性やそれを取り巻く文化的環境などについての議論を扱っていて、メディア研究的、文化批判的な論文が多いようです(イントロには「学際」とか「国際」とか書いてる)。

全部で42個の論文が5つのパートに分けられるという構成になっています。パート1は主にビデオゲームのメディア特性、パート2は主にゲームプレイのプロセスあるいは経験、パート3はゲームを取り巻く社会的文脈、パート4はMODやEスポーツやマシニマのような特殊な周辺文化、パート5はゲームの教育的・学習的側面、を中心に扱っているようです(目次はこちら)。

「ハンドブック」を名乗ってますが、ふつうに論文アンソロジーなので入門書ではないです(サーベイめいた論文はぽつぽつある)。ビデオゲームにまつわる諸問題をかなり網羅的に扱っているので、研究のとっかかりとしては便利かも。

学際なので、当たり外れや相性的な問題が激しいと思われます。パート1と2の論文をいくつか読みましたが、するっと読めるやつと、ディシプリン的に読むのが辛いやつとがありました。いずれも面白かったけど。

Encyclopedia of Video Games: The Culture, Technology, and Art of Gaming.

M. J. P. Wolf編によるビデオゲーム事典です。二巻本でごついです。

所収項目は300ほどです。ゲームタイトルや作家やメーカーやプラットフォームの項目もけっこうありますが、それらに加えて分類用語や記述用語、さらには特定の研究が提案した概念なども挙げられていて、実質的にゲーム研究の事典(兼 入門書)として使えます。

一項目あたりだいたい二段組1~3ページ程度で、そこそこの内容があります。それぞれの項目にfurther readingがちゃんと紹介されています。

執筆者は、ふつうにゲーム研究の有名どころが並んでいます。たとえば、"Ludology"の項目は、G. Frascaが書いていて、こんな調子です(pp.365-366)。

From the Latin root ludos[sic] meaning "play," the term "ludology" has two meanings. The first refers to the discipline that studies play and games. [...] The second and most frequent use of the term is for describing a school of thought that supposedly attempted to understand games by mainly focusing on their mechanics. [...]

ゲースタの古典的な諸概念について最低限の知識は手に入るので、ゲースタに関してなんか言う場合は、とりあえず関連項目を読んどけばいいんじゃないでしょうか。

Understanding Video Games: The Essential Introduction. 2nd Edition.

人文・社会科学系の学生向けのゲーム研究の教科書の第二版です。

章立てはこんなかんじ。

  • 1章: ゲーム研究の主要な観点とアプローチの紹介
  • 2章: ビデオゲームの産業的側面について
  • 3章: ゲームの定義とジャンルについて
  • 4章: ビデオゲームの歴史
  • 5章: ルール・空間・時間・グラフィックなど、ビデオゲームの形式的側面について
  • 6章: 文化的・社会的文脈の中でのビデオゲームとプレイヤーのありかたについて
  • 7章: ビデオゲームにおける物語やフィクション世界とその受容について
  • 8章: ゲームの教育的使用や政治的使用など、シリアスゲームの諸問題
  • 9章: ゲームの害や倫理的問題など、ゲームのリスクをめぐる議論について

全体としては、初学者向けに、基本的な知識や、問題系ごとの定評ある説を紹介していくかんじの本です。ちょっとつっこんで考えれば疑問な記述も多いですが、初歩的な概念整理や地図作りとしては十分機能します。個人的に興味あるのは3章と5章と7章の話ですが、読んで思考の整理にたいへん役立ちました。

というわけで、ゲースタを最初にかじるための入門書としておすすめです。ビデオゲームにかかわる人文的関心はおよそ取り上げられていると思うので、ゲームについてなんか言うまえに関連部分を読んでおけば大きくは外さないんじゃないでしょうか。

おわり。