シブリーが挙げる美的用語の一覧

追記(2014.01.19)

「Aesthetic Concepts」のレジュメを作りました。PDFです。


フランク・シブリーは、古典的論文「Aesthetic Concepts」(1959)の冒頭で、その論文の主題である美的なもの(美的用語、美的概念、美的判断、美的性質)をひとまず以下の二点で特徴づけしているように思われる。

  • ① 美的用語の適用には趣味(taste)ないし感受性(sensitivity)という特殊な能力が必要である
  • ② 美的用語*の事例の列挙

①はこれだけだとほとんどなんの限定にもなってないので*、問題の領域を実質的に特徴づけているのは②の大量の事例ということになる。

逆に言えば、これらの用語を見てぴんとこない人は、シブリーが(そしておそらくほとんどの美学者が)関心をよせる「美的なもの」の領域がおおむねどういうものであるかがわからないということになるかもしれない*

そういうわけで、シブリーが挙げる美的用語の事例は美学の領域を人に説明する場合に非常に役立つんですが、どういうのが入ってたか毎度忘れるので備忘録として以下にリストしておきます(登場順)。

  • 統一感がある(unified)
  • バランスが取れている(balanced)
  • まとまっている(integrated)
  • 生気がない(lifeless)
  • のどかな(serene)
  • 陰気な(sombre)
  • ダイナミックな(dynamic)
  • 力強い(powerful)
  • 鮮やかな(vivid)
  • 繊細な(delicate)
  • 感動的な(moving)
  • 古臭い(trite)
  • センチメンタルな(sentimental)
  • 悲壮な(tragic)
  • 優美な(graceful)
  • 華奢な(dainty)
  • かっこいい(handsome)
  • 端麗な(comely)
  • 優雅な(elegant)
  • けばけばしい(garish)
  • かわいらしい(lovely)
  • きれいな(pretty)
  • 美しい(beautiful)
  • 物憂げな(melancholy)
  • ごてごてした(flamboyant)
  • らんらんとした(fiery)
  • どぎつい(gaudy)
  • 安らかな(restful)
  • 病的な(sickly)
  • 味気ない(insipid)
  • 威風堂々たる(majestic)
  • 壮大な(grand)
  • 壮麗な(splendid)
  • 荒々しい(violent)
  • どっしりした(massive)
  • しまりのない(flaccid)
  • 弱々しい(weakly)
  • 枯れた(washed out)
  • ひょろい(lanky)
  • 無気力な(anemic)
  • 青ざめた(wan)
  • 愉快な(joyous)
  • がっしりした(robust)
  • きんきんした(strident)
  • 乱雑な(turbulent)
  • 無秩序な(chaotic)
  • 元気な(vigorous)
  • 力に満ちた(energetic)
  • 生き生きとした(lively)
  • 単調な(monotonous)
  • 簡素な(austere)

リストおわり。

美的用語の例としては微妙なんじゃないかというものもけっこうあるが、そうなるわけは、ひとつには美的用語かどうかは文脈に依存するということ、もうひとつには原語のニュアンスが伝わらないということがあるのかもしれない。

ちなみに、「Aesthetic Concepts」では、対象が美的に良いかどうかの判断(評決的美的判断)と対象が特定の美的性質を持つかどうかの判断(実質的美的判断)の区別は、明確には述べられていない(いちおう注でわずかに言及されているが。Sibley 2006a: 12, fn.7)。

「Aesthetic and Non-aesthetic」(1965)ではこの区別がよりはっきり述べられ、「Particularity, Art, and Evaluation」(1974)では「端的に評価的な用語」「評価付加的な用語」「記述的な価値用語」という区別がされることになる。

とはいえ、すでに「Aesthetic Concepts」の時点でもシブリーが関心を寄せているのは明らかに実質的/記述的な美的用語であり、挙げられる事例もそのタイプのものが多い。

日本語で読めるシブリー紹介はいまのところたぶん以下の今井さんのしかないです。

Footnotes

  • シブリーによれば(Sibley 2006a: 1, fn.1)、正確には「美的用語」というより「美的用語としての使用」といったほうがよい(シブリーは、ある語が美的性質を指すものかどうかは、意味論的な問題というよりむしろ語用論的な問題だと考えているようだ)。多くの用語(たとえば「balanced」や「dynamic」や「melancholy」など)は文脈次第で美的にも非美的にも使われるし、そもそも美的に使われる用語の多くは非美的な用語の比喩的転用から生じたものである。とはいえ、挙げられる諸用語は、美的用語として使われることが多いものであり、それゆえ美的なものがどういうものであるかを特徴づけるのにさしあたり十分な事例として想定されている。

  • 現代日本語の日常的な言葉づかいにおいて、この意味での「taste」や「sensitivity」にもっとも近い語はおそらく「センス」だが、「美的判断はそれをおこなうのにセンスを必要とする判断である」という物言いに対して、「センスってなんすか」と問わずに納得する人はそういないだろう。

  • ちなみに、よく知られているように、シブリーの基本的な主張のひとつとして、美的なものの領域を芸術に限定しないというものがある。今日では当たり前の見解だが、当時としては珍しいものだろう。

References

  • Sibley, F. (1959). "Aesthetic Concepts." The Philosophical Review 68(4): 421-450. Reprint with minor revisions: Sibley, F. (2006a). "Aesthetic Concepts." In Approach to Aesthetics: Collected Papers on Philosophical Aesthetics. J. Benson, B. Redfern, J. R. Cox (eds.), Oxford UP: 1-23.
  • Sibley, F. (1965). "Aesthetic and Nonaesthetic." The Philosophical Review 74(2): 135-159. Reprint: Sibley, F. (2006b). "Aesthetic and Non-aesthetic." In Approach to Aesthetics: Collected Papers on Philosophical Aesthetics. J. Benson, B. Redfern, J. R. Cox (eds.), Oxford UP: 33-51.
  • Sibley, F. (1974). "Particularity, Art, and Evaluation." Proceedings of the Aristotelian Society, Supplementary Volumes 48: 1-21. Reprint: Sibley, F. (2006c). "Particularity, Art, and Evaluation." In Approach to Aesthetics: Collected Papers on Philosophical Aesthetics. J. Benson, B. Redfern, J. R. Cox (eds.), Oxford UP: 88-104.