『ビデオゲームの美学』はこんな本

Oct 18, 2018|ゲーム研究

おかげさまで『ビデオゲームの美学』(慶應義塾大学出版会)が今週末に刊行されます。目次は以下。

表紙デザインは小椋海里さんにお願いしました。相談しながら作ったんですが、〈へろへろでありつつパンチがある〉という理想的なものができてよかったです。

以下、内容について。

はじめ、章ごと・トピックごとの詳しい内容紹介とか「こういうのに興味があるならこの章がおすすめ!」とか「この章のここは力が入ってます(抜けてます)」みたいな裏話を書こうかと思っていたんですが、そういうのもある種のネタバレでよくないかなと思い直したのでやめておきます。本は読む人のもの。

おおよそどんな本かは、あとがきに書いています。

本書は、2015年の春に東京藝術大学に提出した博士論文「ビデオゲームにおける意味作用」がもとになっている。それからいままでのあいだに、二つの翻訳書の仕事をした。イェスパー・ユールの『ハーフリアル』(ニューゲームズオーダー、2016年)とネルソン・グッドマンの『芸術の言語』(慶應義塾大学出版会、2017年)だ。とくに意識していなかったのだが、図らずも本書の内容は、これら二つの古典の組み合わせになっている。本書は、ユールが定式化したビデオゲームの二面性ルールとフィクションとその相互関係を、グッドマン風の記号理論の観点からとらえなおしたものだ。

ついでに、まえがきの草稿(結局ボツになった)の一部も載せておきます。一言どこかに書いておきたいことだったので。

博士論文をベースにしているという性格上、本書には多少の読みづらさがあるかもしれない。とくに、研究の位置づけや前提について述べている部分がふつうの研究書に比べてだいぶ多いと思う。とはいえ、本書の多くの部分は、そうした煩雑な前置きを読まなくても十分理解できるようになっている。それゆえ、議論の中心にいたるまえに挫折してしまったりしないように、興味のない箇所はどんどん飛ばして読むことをおすすめする。

また、本書にはテクニカルタームが少なからず登場するが、いずれも本書のなかで明確な定義か説明を与えているはずだ。読んでいてよくわからない用語が出てきたとしても、それより手前のどこかを見れば、その用語の意味についての説明が見つかるだろう。意味のはっきりしないジャーゴンをまき散らすようなことは、本書でもっとも避けたことである。

というわけで、どんどん飛ばして読んでいただいてかまいません。長いし。

本の全体としては、『ハーフリアル』の続編みたいなものとして読んでいただくのが一番わかりやすいかもしれません。それから、現代の英語圏美学(分析美学)の基本的な考え方を広く把握するのにもある程度使えると思います(入門レベルですが)。とくに1~3章は、ビデオゲームにかぎらず、現代のポピュラーカルチャーを美学的にまじめに考えたい人にとって何かしらの足がかりになればといいなと思いながら書いています。日本の美学・芸術学の現状は、そういう関心に応える知識や道具立てをほとんど与えてくれないですからね。

森さんの宣伝ツイートがやたらと伸びていますが(ありがたい)、名著かどうかはともかく、いいかげん時代が変わってほしいとは思っています。それは日本のゲーム研究に対する気持ちでもあるし、日本の美学業界に対する気持ちでもあります。

おそらく、読む人によってはぬるく見える箇所や、逆に不必要に専門的でくどく見える箇所が、全体を通して多数あると思います(たとえば、ビデオゲームについての記述や、哲学的な議論の紹介に関して)。議論の根幹に関わるものであれそうでないものであれ、不適切なところやわかりづらいところに対するご指摘・ご批判をお待ちします(ヨイショもお待ちします)。

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おわり。