2018年に出たゲーム研究・批評関連の本(日本語)
Dec 31, 2018|ゲーム研究
2016年はゲームの歴史に関する本が豊作でしたが、2018年はゲームに関する理論や批評の本が豊作でした。引き続き2019年も、把握しているかぎりで複数のゲーム論集が出ることになっています。日本のゲーム研究の実質的な夜明けが来た感じがあります。
以下、2018年分をまとめます。漏れがあったらお知らせください(ゲーム開発の本や、ゲームを扱った文章は収録されているが全体としてはゲームの本ではないというものは外しています)。
Florent Gorges『スペースインベーダーを創った男 西角友宏に聞く』徳間書店、2018.
フランス人の著者が西角さんに聞く本。見聞きするかぎりでは、往年のゲーム開発者のオーラルヒストリーのプロジェクトはそれなりに進められているようですが、もっともっとがんばってほしいところ。
ヨハン・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス―文化のもつ遊びの要素についてのある定義づけの試み』里見元一郎訳、講談社学術文庫、2018.
ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』の邦訳は中公の高橋訳(こちらもどういうわけか2019年に新版が出るようですが)が有名ですが、もうひとつ河出のホイジンガ選集版の里見訳もあります。その里見訳が講談社学術文庫で文庫化されたものがこれ。
訳のクオリティはどっちが良い悪いなどはないと思いますが、それぞれくせがあってだいぶちがう訳なので、研究者は両方手元にあるといいんじゃないかと思います。
D・H・ウィルソン & J・J・アダムズ編『スタートボタンを押してください』中原尚哉・古沢嘉通訳、東京創元社、2018.
短編オムニバス。下に挙げている藤田祥平さんもですが、「ビデオゲーム文学」というべきジャンルが完全に成立したかんじがあります。
中沢新一・遠藤雅伸・中川大地『ゲームする人類―新しいゲーム学の射程』明治大学出版会、2018.
ゲームに戻ってきた中沢新一。2018年1月には、明治大学で大規模なシンポジウム「ゲーム研究の新時代に向けて」が開催されました。年明けには、このシンポジウムの内容をベースにした論集も出る予定。
伊藤毅志・保木邦仁・三宅陽一郎『ゲーム情報学概論―ゲームを切り拓く人工知能』コロナ社、2018.
地味にこういう本が出ていた。ゲーム理論ベースですが、本物のゲームに当てはめている点で正しく「ゲームの研究」というかんじがあります(通常のゲーム理論は文字通りのゲームの研究ではないので)。また三宅さんのパートでは、ビデオゲームとゲームAIへの接続もあります。
東浩紀編『ゲンロン8 ゲームの時代』ゲンロン、2018.
いろんな意味で盛り上がった『ゲンロン』ゲーム特集号。ゲームの歴史(あるいは文化史一般)を組み立てるとはどういうことか、何が適切なアプローチなのかは、引き続き議論すべき問題として残っていると思います。それからこういう話題では、議論者がお互いにチャリタブルにならないと生産的な話にならないというのもはっきりした気がします。そうした課題を明確にしたという点で、ゲーム史座談会の試みはよかったなと思います。
座談会以外にもいい論考がたくさん載っているので、全体として非常によい論集なのはまちがいない。
井上奈智・高倉暁大・日向良和『図書館とゲーム』日本図書館協会、2018.
図書館でのゲーム(ボードゲームやビデオゲーム)活用のノウハウを具体的な事例とともに提供しているもの。さらにアーカイブの話があるのがとてもよい。
松永伸司『ビデオゲームの美学』慶應義塾大学出版会、2018.
拙著です。いちおうゲームスタディーズの王道のつもりでやってはいますが、バックグラウンドは美学(のなかのさらに特定の流派)というマイナー領域なので、結果として「なんだこの問題設定と方法は」となるかもしれません。逆になんだこりゃとならずに読んでいただけるようなら、美学(のなかの特定の流派)も捨てたものではないなあと思います。さまざまなご批判を待ちます。
noirse・湯川静編『ビンダーvol.6 特集:ファミコン』ククラス、2018.
同人誌『ビンダー』のゲーム特集。「ファミコン」とありますが、任天堂ファミリーコンピュータにフォーカスした論考ばかりというわけではなく、ゲームについて個々の論者が好き勝手書いているかんじです。こういうのはもっとあっていいと思う。
限界研編『プレイヤーはどこへ行くのか―デジタルゲームへの批評的接近』南雲堂、2018.
全体の方向性を用意周到に設計したかんじがあって、かなりよい批評本ではないかと思います。現在進行形の事象を扱う熱い論考が多い。キーワード集もすばらしいのですが、研究者としては典拠があるものについては典拠をつけてほしいとは思う。
おわり。